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次第に身体が軽くなり、みんなが声を出しあう。
先ほどまでの緊張感を、お互いが笑いあえるようになったころ、再び体育館の扉が開いた。
「お前達、大概にしとけよ」
顧問が帰り支度を済ませて、しかし少し嬉しそうに覗きこんでいる。
「大会前に怪我をしたらしゃれにならないぞ。ほら、片付けろ」
急かされるまま、ネットやポールを運び倉庫にしまうと、軽くストレッチを済ませた。
身体の熱は数分もするうちに冷えていったが、気持ちの高ぶりは一向に引かない。
顧問もそれに気づいたのだろう。
体育館の電球の下、薫達に声をかける。
「お前たちはまだ一年なのに、先輩を支えて頑張っているよ。新人戦、気持ちが出ていればうまくいく。負けてもいい。納得のいく試合にするんだ」
そうして、右手を前に出す。
異様な空気が味あわせる妖艶な一体感から、一人、また一人と顧問の上に手を重ねていく。
「女子校ー!ふぁいっおー!」
掛け声と同時に一度強く手を沈めた後、一斉に振り上げる。
いつもは部長がやる掛け声を自分たちでしたことで、自然と恥ずかしさから笑いがこみ上げる。
「あと10分だけやる。早く着替えるんだぞ!」
顧問はすっきりとした表情で、体育館を出て行く。
返事をしたのは半分くらいだっただろう。
「やばい、八時半なんだけど」
一人が声に出す。すぐに伝わる緊張感が空気を震わせる。
足の先から湧きあがってくるような恐怖に全身が包まれた時だった。
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