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「大丈夫。あんなの迷信だって。麦茶残っているから飲んじゃって。はい、みんなのタオルね」
「あぁ、ありがと。そうだよね」
当たり前のようにタオルで顔を拭き、差し出されたカップから麦茶を喉に流し込むと、薫の気持ちも
落ち着いてくる。みんなも平静を装っているのかもしれないが、本当は建屋まで走って戻り、叫びたいくらいだった。
どうにか着替えを済ませて家路につく。
「いつもの快速じゃないから、時間がかかるかもね。練習疲れたけど、楽しかったよね」
そんな会話をしながらも、駅まで歩いているうちにいつのまにか円陣を組んだことなど頭の
中から消えていたのは間違いない。
駅まではみんなで向かうが路線がそれぞれ異なるため、ホームに上がると一人になる。
薫は一人電車が来るのを待ちながら、飲み物を買おうか迷い、ホームに目を走らせる。
と、口の中に蘇る麦茶の味を思い出し、ふと違和感を覚えた。
試合に行くと、確かに飲み物をよく口にする。しかし、練習では夏でもないのにほとんど
水分をとることはない。ましてや、ああしてカップについでくれる人間などいないはずだ
「あれ、うちの部にマネージャーなんていないのに」
そう気付いた時だった。
背中に強い衝撃を感じ、ホームから線路上へ身体が浮きだすのをスローモーションで眺めるようだった。
周囲の人間が、大きく目を見開き、驚いた様子で自分を見つめている。
と同時に、右半身に強い衝撃があり全身に猛烈な熱さが走る。そして、自分の位置がどうなったのかもわからずに顔から地面に落ちる。
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