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座禅を終えてお茶をごちそうになったあと、帰りのあいさつをして外に出る。冬の空気は冷たいが丁寧に手入れされた庭は清々しい。
ふと一本の桜の樹に目が止まる。なぜか、まだ妻と付き合いはじめる前に彼女がつぶやいた言葉を思い出した。
「艶やかに色づく幹が好きなのよ」
開花前のまだだれも気にも留めない寒い時期、あの黒っぽくゴツゴツとした桜の樹肌はうっすらピンクに染まるのだという。当時、ふだんはサバサバしている彼女が口にした艶という台詞にドキリとした。
まぁ。約25年後にはヒーターにへばり付いたまま、あんまんを待っているわけだがな。
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