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○ ○ ○
「ただいま。ほれ」
やはり買ってきてしまった二人分のあんまんをダイニングテーブルに置く。
「おかえり-。お、やったねこしあん待ってましたっ。お茶いれようねえ」
いつだったか子供らがプレゼントしてくれた夫婦湯のみに、熱々のほうじ茶が注がれる。
......む。住職のお茶とはもちろん違うが、これはこれでうまい。ほっこりする。ような気がするが気のせいか。
「う-んおいし-。ありがとダーリン」棒読み口調ではない妻の頬が桜色に艶めいている。ように見えたが錯覚か。
食べ終えると、やつはまた定位置で涅槃仏に戻った。ので、私も同じように寝そべってみる。四半世紀前よりは微妙な距離を保ってだが。
「あ」
「なに」
「いまオナラ出たかも。ごめんねダーリンぷっぷぷ-」
「かも、じゃないだろうが、出たんだろうがっ」
それでも、
ヒーターの風上で額をぺちんとやって照れ隠しする妻の頬が、今度こそは間違いなく上気していたので。
私は......。
「くせ-よ」と言いながら、風上に向かってズリズリと四半世紀分の距離を縮めてみた。
(おわり)
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