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ズルルルル、と、引きずるような音がする。全身焼け爛れ、原型を留めない男はそれでも両眼だけは光らせて迫ってくる。闇から姿を現すそれが、濁った声を発する。
『お前は私のものだ、ナルサッハぁ』
『違う! 私はお前のもんじゃない! 違う……違う!!』
ガチャガチャと手錠を鳴らして逃げようとする。怖い、もう嫌だ。助けて、助けて!!
その時強い力で頭を抱き寄せられる。そしてランタンの明かりが、闇から現れた男へと向けられた。
「よくも……私の大切な者を傷つけた」
初めて見る、アルブレヒトの燃えるような瞳。こんなに強い目を見たことがない。憎しみを滲ませる目を見たことがない。
鋭い両眼が男を見据え、男は炎に怯む。それでも黒い固まりはこちらを見て、ニヤリと笑うのだ。
『お前は醜い。お前は奴隷だナルサッハ。お前は私のものだ』
違う、私は奴隷じゃない。私はお前のものじゃない。私は……
『私はこの方のものだ! お前のものなんかじゃない!!』
否定の言葉を力一杯に吐き出した。その時、アルブレヒトがランプを男に投げつける。業火が男を包み込み、断末魔の声があがった。
アルブレヒトの抜いた剣が、男の体を両断する。悲鳴を上げた男が両目をぎょろぎょろさせながら、それでも手を伸ばしてくる。
『ナルサッハぁぁ』
「地獄の下層へと墜ちるがいい。そこで、彼にした事を悔い続けろ」
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