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赤黒く、皺が寄っていた皮膚が綺麗に戻っている。触れた左側の顔にも、硬く皺が寄って沈み込んだりしていない。綺麗に、戻っている。
「行きましょう、ナルサッハ」
微笑んだ人の手を握って、自らの足で地下を出るとそこは、綺麗な星空が輝いていた。
『綺麗ですね』
「えぇ」
しばし無言のまま、空を見上げていた。
その時不意に、意識が深く沈むような感覚があり倒れそうになった。それは当然のように訪れる、別れの予感だったのだろう。
「ナル」
寂しそうな目がこちらを見る。
けれど、ナルサッハは自らの意志でこの感覚を振り切った。するとまた、自分の中に確かな感覚が戻ってくる。
まだ逝くわけにはいかないのだ。まだ、落とし前をつけていない。
「良かったのですか?」
不安そうな顔がこちらを見ている。だから、綺麗になった左の手でアルブレヒトに触れた。
『今少し、留まります。まだ、やり残した事がございますので』
「やり残した事?」
疑問そうな人が首を傾げるのに、私は微笑み膝をついた。
『我が君、アルブレヒト様。貴方の臣として、最後に勤めさせていただきます。時が来るまでしばしお別れですが、どうかお気になさらずに。時がきましたら必ず、再びお目に架かる事をお約束いたします』
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