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★レーティス
あの日から、どのくらいの時間がたったのか。もう、感覚が分からない。
全てにおいて無気力で、食欲もわからない。眼裏に、落ちていくセシリアの姿ばかりが繰り返し映し出されて狂いそうになる。
いや、狂ったのかもしれない。不意にフラッシュバックして、叫んで泣いて……その度にオーギュストが抱きしめる。腕を拘束する様に強く後ろから抱きしめられて、手で目を覆われる。
「大丈夫だ、レーティス。側にいるから、平気だ」
静かに低い声が流れ込む。その声を闇の中で聞くと、不思議と落ちていけた。
彼は甲斐甲斐しくレーティスの世話をしている。目が覚める時には側にいて、眠る時も側にいて。食事も彼の手からだけは、食べる気になった。受け付けないけれど、心配させたくなくて詰め込んだ。
苦しそうな顔をしないで欲しい。こんなに世話をしなくてもいい。第一、この人にそんな義務はないはずだ。こんな面倒臭い奴をどうして、側に置いているんだ。
「お人好し……」
ぽつりと呟く言葉は側にいる彼に聞こえているだろう。それを分かっているから、自己嫌悪に陥る。
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