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それを見るナルサッハの目には冷たさだけが印象的だ。
『さて、仕事をしましょう。我が君、これが最後の務めとなります。ですがどうか、悲しまれませんように。多くの事がありましたが、今の私は幸せです』
「ナルサッハ」
『願わくば次にどのような姿で産まれ落ちてもまた、貴方の側に。その時には再び、貴方を慕う友のようにありたいと思います』
離れ、ふわりと飛んで行きそうな彼を思わず追いそうになる。それを、ナルサッハは制した。
『貴方の治世が長く平穏でありますように。そして貴方にも、幸多い未来を』
「ナル!」
ナルサッハの体は死者であるのだと言いたげに宙に浮く。そうして処刑台へと向かった彼を、不思議な事にキルヒアイスも見ているようだった。
「ナルサッハ! 貴様、死んだはずじゃ……」
『残念ながら既に死んでおりますよ、陛下。それにしても見苦しい。民の前でなんたる無様な姿を晒すのですか』
キルヒアイスの前に浮く彼は嘲笑を浮かべ、艶やかに唇に指で触れる。途端、キルヒアイスは呻くことは出来ても意味のある言葉を紡げなくなった。
「ん゛!」
『心配召されるな、陛下。道行きは私が同行致しましょう。なに、大したものではありません。貴方が民にしてきた仕打ちに比べれば可愛いものでしょう』
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