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「ん゛! うん゛!」
ナルサッハが両手を広げると、ボロボロに傷つき血を流す白い羽が現れる。それでも彼は笑い、炎に飲まれたキルヒアイスを抱え込んだ。
『我が名はネメシス。義憤の体現者であり、無礼者に罰を与える者。さぁ、参りましょう』
大きく口を開けるように、黒い穴が二人の下にぽっかりと開き、飲み込んでいく。あれは、地獄へと通じる穴。あそこに落ちた魂は、ちょっとの事では戻ってこない。
全てを見つめ、言葉がない。魂を失ったキルヒアイスの体は燃え尽くされるまでそのままだ。だがもうそれは器の問題であって、そこには二人の魂はもうない。
頬が濡れていく。思わず立ち上がり、テラスから乗り出すように見ていたアルブレヒトはそのまま泣いていた。
このままではいけない。こんな顔を民の前には晒せない。困っていると隣りから、スッとハンカチが差し出された。
「民の前で涙を見せてはいけませんよ、アルブレヒト王」
「カーライル殿……」
言葉は厳しく。だが、表情は見守るように穏やかなまま。差し出されたハンカチで目元を拭ったアルブレヒトを、彼は笑顔で迎えてくれた。
「お別れは、できましたか?」
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