【おまけ2】とある王子の転落(キルヒアイス)

1/6
380人が本棚に入れています
本棚に追加
/174ページ

【おまけ2】とある王子の転落(キルヒアイス)

 キルヒアイスは、母という人を知らない。分からないくらい小さな頃に死んだらしいが、どうして死んだのかを彼は知らない。  姿だけは肖像画で知っている。綺麗な人だと思っている。  その後は、乳母がついた。けれど、どの乳母も二年もしないうちに変わっていって、その後は顔を見なくなった。噂では、死んだらしい。でもどうしてかは、教えてくれなかった。  五歳になって初めて、ちゃんとした乳母がついた。宰相の親戚だと、教えて貰った。  その頃、父はよくキルヒアイスに話しをした。大好きで、穏やかな父は忙しくて週に一度くらいしかゆっくりと話しができない。  そしてその間、何度も繰り返す話しがある。 「いいかい、キル。お前には離れて暮らしているけれど、従兄弟のお兄さんがいるんだよ」 「従兄弟?」  その感覚は幼いキルヒアイスには分からなかった。この城に同じ年くらいの人はいない。回りは皆大人だ。  でも、それがキルヒアイスの普通だった。よく美味しいお菓子や玩具をくれる大人達は口々に「次期王へ」と言う。  王というのは、爺様のことだ。王太子は父の事。その子供のキルヒアイスが子供の中では一番偉いんだと、皆言ってくれる。     
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!