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「また長老のところか? 無理に頼んだりしていないだろうな?」
「そんな事していません! 長老様はいつも『孫よりも可愛い』と言って親切にしてくださいます」
里の最高齢である長老は沢山の話を知っている。森に住む美しい乙女と神の恋のお話し。生まれた子供の少し悲しくも尊い話。
中でも一番のお気に入りは、帝国建国の王とその供をした美しいエルの神子、ユーミルの話だった。
「まったく、あの爺さんも甘やかして」
「父さんこそ、そんな事を言ってはいけません。年上の人は敬うのですよ」
「まったく、口が達者だ」
笑いながら、また頭を撫でてくれる。くすぐったくて笑っていると、森から帰ってきた母と姉がいた。
「もう、ネメシスったらまた甘えて!」
「姉さんも甘えればいいだろ?」
「嫌よ、恥ずかしい」
二つほど年上の姉は、最近女性らしくなってきた。そして少しだけ、父と距離がある。恥ずかしいそうだ。
そんなやりとりを、母は笑って見ている。籠には一杯の薬草などが入っている。
母は自分では「もう年だ」なんて言うけれど、とても綺麗で可愛いと思う。長い綺麗な髪に、透き通るような肌。時々里のヒヒジジイが色目を使うけれど、これで気が強いから逃げるのはジジイの方だ。
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