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お帰りの挨拶で、母は父の首に腕を回し、父は母の両頬にキスをする。とても仲のいい二人がを見ていると、僕もいつかこんな風になりたいと思ってしまう。まだずっと、先の話だけれど。
「ただいま」
「レト、おかえり」
一つ年下の妹レトが、のんびりと帰って来る。花摘みをしていたのか、頭には可愛らしい花冠がある。
「兄さん、また長老様の所にいたのね」
「え?」
「本の匂いがする。お好きなのね」
「うん」
匂いに敏感な妹がクスクスと笑って、僕の頭に花冠を被せた。
「たまにはお日様の匂いや、草や土の匂いもいいものよ」
「苦手なんだよ」
体を動かすのはあまり得意じゃない。それよりも本を読んだり、長老達の話を聞いている方が楽しい。
「ネメシスは賢い分、運動は苦手なのかな?」
「情けないわね、もう。父様はこんなに立派なエルの戦士なのに」
「こらケレース、押しつけはいけないよ。それに戦うばかりが強さではない。多くを知る事もまた、強さになるんだ」
大きな手が、ポンと頭に置かれる。力づけるようなその動きに、僕はいつも励まされる。
「お前の強さを磨きなさい。それでいいんだよ」
「はい、父さん」
この時の僕は、この平和が続くんだと思っていた。穏やかな、ひっそりと止まってしまいそうな時の中で生きていくんだと、何一つ疑問には思わなかった。
それから少しの時間が流れた頃、暗雲は突然流れ込んできた。
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