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その間に、二人とも少し大人になった。アルブレヒト様は王太子としての仕事が。私は役人になるための勉強が。
それでも触れあう手は違う。初めて会ったあの頃と同じ、温かく包むような慈悲を見せてくれる。
「ナル、貴方が私の為に頑張ってくれているのは知っています。けれどその為に、貴方が苦しい思いをしているのであれば止めてください。私は貴方が側にいれば、それ以上は求めません」
キュッと握られて、心の中のモヤモヤしたものが薄らぐ。同時に流れ込むものは、心からの心配だった。
家臣達はこの人を「世界を知らないバカ王子」と心の中で罵る。けれど私からすると彼らこそ知らないのだ。これほどに人を想い、世を憂える方はいない。人の悲しみを知り、苦しみを癒やす人はいない。
「私は苦しくなどありません、我が君」
私は笑う。この方に触れ、この方と言葉を交わすと心の奥底から希望が生まれる。そして、勇気がわいてくる。挫けそうなとき、心の中にこの人が宿る。温かな光を抱きしめるだけで、目の前の困難がちっぽけに思えてくる。
「ナル」
「平気です。私は私の見たい未来の為に、今を生きているのです。貴方の為ではありませんよ」
そう、これは私の願い、私の希望。この方の治世を見たいという、私の押しつけなのだろう。それでも譲るつもりのない未来だ。
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