とある宰相の転落劇・3(ナルサッハ)

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「それよりも陛下、辺境地へ赴くと聞きましたが……大丈夫ですか?」  思い出して問いかけると、アルブレヒトは苦笑して頷いた。  忘れられた地などと言われる国境の町へ、アルブレヒト様自身が赴かれて復興と救済をする事となった。王太子として、実際の復興に御自ら手を尽くされるのだ。  だがこれは主流派の口実だろう。実際は王太子として力をつけてきたアルブレヒトを邪魔に思って、一時的に遠ざけようとしているのだ。  アルブレヒト様と現王陛下はどちらかと言えば穏健派と親和だから、上手く動かなくなっている。 「平気ですよ、体調もいいですしね。それに彼の地では自分達の生活を守ろうと辺境義勇兵なる民兵が頑張っているとも聞きます。彼らの事も救い上げてあげたい。ただ、時間はかかると思います」 「そう、ですね……」  ズキリと少し痛むのは、この方の広い優しさを独り占めしたいという嫉妬だろうか。誰よりも側にいる私は今まで、この方の愛情を独り占めしていた。その目が他者に向くのが、面白くないのかもしれない。  こんな時、心を知られなくて良かったと思う。もしもこの方に私のような心を読む能力があったら、こんな浅ましい考えも読まれてしまう。嫌われてしまうだろう。     
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