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だからこそ、この方に私の能力を教えられずにいる。触れた相手の心を読むなんて、知られて気分の良い者はいないだろう。知られてしまったら今のように、触れてくれなくなるだろう。
「ナル、待っていてくださいね。出来るだけ早く戻ってきますから」
「はい、お待ち申し上げております。我が君」
本当は、ついていきたい気持ちもある。この方の側を離れる事は、私が不安になるのだ。甘ったれている気もするが、辛い時の安らぎだから。どれだけ蔑みの声を浴びても、日の終わりにこの方と夕食を共にし、談話室でたわいない会話をし、笑い合う事で癒やされているのだから。
だがついていっても、きっと迷惑をかける。この方は王太子だが同時に戦士でもある。アヌンド老将と剣の鍛錬をしているし、弓の腕は国でも秀でた才能を持っている。森の戦士としての才能も、この方にはある。
それに比べ、私はてんでダメだ。こんな事なら嫌わずに、弓の腕でも磨いておけばよかった。そうすれば今、この方と共に行けたのに。
そっと、温かな手が触れて目の前を見た。こちらに寝返りを打ったアルブレヒト様の手が、頬を撫でている。そしてそっと近づいて、柔らかな唇が額に触れた。
「ナル、自分を信じて、自分に正直に生きなさい」
「え?」
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