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「影があります。貴方に災いがないように、呪いをかけました。ですが貴方の心次第で、呪いは弱まってしまう。貴方の感じるものを、心にあるものを信じるのですよ」
不安そうに揺れる薄紫の瞳を見つめ、私は微笑んで頷いた。
それから数日で、アルブレヒト様は辺境へと旅立たれた。妙に寂しくて、見送る時に何度も口を突きそうになった。「行かないで」「連れて行って」と。
その言葉を飲み込んだ事が、地獄への入口だったのだろう。私が私ではなくなる、そんな地獄が大きな口を開けて待っているなんて、私は思っていなかったのだ。
アルブレヒト様が旅立たれて、しばらく。突如宮中は騒がしくなった。現王陛下が、御倒れになったのだ。
不安に思いながらも私は期待もした。この状態ならば、アルブレヒト様が戻される。そう思っていた。
だが宰相は突如、その後がまにキルヒアイス様をと強引に押し上げて、アルブレヒト様には連絡すらしなかったのだ。
政権乗っ取り。私の目にはそのように思えた。
「ナルサッハ、苦労させて申し訳ない」
「陛下、そのような事は。まずは御身を一番に考えてください」
枕元に私を呼んだ陛下は、とても疲れた顔をしていた。
髪色や瞳の色は違えど、面差しはアルブレヒト様に似ている。優しい瞳も同じで、温かな心も同じだ。
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