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一方のキルヒアイス様の目はどんよりと曇り、平時は無関心。王の代行だというのに眠そうに欠伸をして、報告には全て「良きに計らえ」としか言わない。
こういう王を育てる事が、主流派の目的だったのだろうと思う。一方で女好きは見事なもので、メイドの尻を触ったり、胸を触ったりと苦情が酷い。今までは同じ敷地にある離宮にいたが、そこでも女性問題は常だったと聞く。
「アルブレヒトが戻るまで、この体が保てばいいのだがね」
「そんな弱気な事!」
「情けないが、事実だよ。あの子が王位につけば、この国はもう少し変わる。出奔していた意味があるというものだ」
「……それは、どういうことでしょうか?」
不穏な空気にピクリと身を震わせると、陛下は苦笑して頷いた。
「元来研究好きであるのは、そうだよ。植物学を修めて、この国の民が苦しまぬように新しい薬草の研究と、こちらで栽培可能かを検証する。それは勿論目的だったけれど、もう一つはこの国に取り込まれる前に弟か私、どちらかが外に出て子を設け、害の無い世界で育てる。それが目的でもあったんだ」
「そんな……」
諦めたように苦笑した陛下が、私の頭を撫でる。その手からはアルブレヒト様と同じ優しい温もりを感じる。同時に、諦めの感情も。
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