とある宰相の転落劇・3(ナルサッハ)

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 出来るだけ早く、後ろ盾は欲しい。その時、サルエン以上の地位持ちもいなかった。 「実は数人、養子にと申し入れがあるんだ」 「え?」 「私も少し、迷っていてね。個人的には君の才能を埋もれさせたくはないのだが……」  それは、早々に決めなければもう私にチャンスはないということか?  迷った。この男から感じる印象は変わらない。だがそのバックは、あまりに魅力的だ。アルブレヒト様が戻られる前に少しでも力をつけておきたい。役人になったとはいえ、底辺だ。掃いて捨てられる部分だ。  何処かで、警報は鳴っている気はした。アルブレヒト様の呼ぶ声も聞こえる気がした。けれど私は、焦っていたのだ。この国を、アルブレヒト様の帰る場所を守るのだと。 「分かりました。そのお話、謹んでお受けいたします」  私は地獄へのドアを、自らの手で開けてしまったのだ。  すんなりと養子となり、私はサルエンの屋敷に移った。そうして数ヶ月、私の仕事は驚く程に順調だった。地位も少し上げ、実力も発揮できている。  サルエンは時間が合えばディナーを共にしたが、心配された事は何もない。日々の事を話して、それで終わる。  全ては杞憂だった。やはり私のエルの能力は少し鈍っていたんだ。     
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