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拳で顔を殴られ、思わず呻く。口の中に血の味がジワリと広がった。
「誰に口を利いている、この奴隷が!」
「……え?」
奴隷? 違う、私は奴隷じゃない! 奴隷なんかじゃない!!
だが、私のそんな様子を読んだように蔑んだ瞳が見下ろし、顎を強く掴み顔をグイッと近づけた。醜い欲望の混じる男の表情に、私は怯えていた。
「奴隷だろ、ナルサッハ。そのくせ出しゃばるから、宰相閣下の目についたのさ」
「なに……」
「バカな奴だ。王太子に尻尾振っていれば、平穏に生きられたってのにな。目障りだったんだよ」
ズキズキと、胸が痛む。「分をわきまえろ」と、何度も言われた声を思いだした。それでも私は必死だったのだ。何も持たない私を大切な家族や友のように思ってくれるアルブレヒト様の為、力を尽くしたいとただ願って……
「まぁ、私としては旨味ばかりだ。お前を見る度、犯したくてたまらなかったんだ」
「……こんな事、すぐバレる。エトリムが、きっと」
彼はただの執事ではない。宮中の裏を調べる監察も行っている。この人がいたから、私は救われたんだ。
だが、サルエンは今度こそ腹を抱えて大笑いをした。
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