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ふと、ナルサッハは視線を上げる。無人の教会の中、ただ一人の主を待っている。
第二の都市に逃げ込み、一ヶ月と少し。キルヒアイスが何をしているのかは、もう知らない。
長い時間に感じた。その中で、こんな過去を思い出していた。
思惑はその通りにはならなかった。アルブレヒトはやはり、アルブレヒトなのだろう。それでも少しはいい目をしてくれているといい。私を殺す目をしてくれればいい。多少、俗人に近づいてくれていればそれで満足だ。
音がする。きっと、攻め込んできたんだ。
そうして待つ事数十分、教会の扉が開いた。
「ナルサッハ」
真っ直ぐに見るアルブレヒトの目を見て、ナルサッハは笑った。
あぁ、いい目だ。手垢にまみれ、多生墜ちた目だ。貴方は知った、人を憎む心を。
「我が君」
愛しさを込めて、そう呼んだ。
ナルサッハの心は震えるような喜びを感じている。愛しい主が、待ち望んだ断罪をくれる時がきたのだ。
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