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だがその度に胸に沸き上がるのは、短くとも濃密に過ごした時間。語り合った事、微笑み合ったこと。肉親を亡くし泣きじゃくる彼の側にずっといた事。
戻らない幸せを辿るようで苦しく、どれほど悲しんでも戻る事はないと言い聞かせ、それでも止める事ができなかった。
「ねぇ、お前はどこにいるのですか? お願いですから、教えてください。私はもう一度、お前に会いたい」
墓石をなぞるその指先に、ふと触れた細い細い絆の糸。それは王都のどこかへ向かう。そして悲鳴の様な「助けて!」という声が聞こえた気がした。
「! まさか……」
居ても立ってもいられない気分で腰が上がる。この感覚が確かなら、ナルサッハのいる場所に心当たりがある。
自然と体が震えた。死して尚、あの地獄に戻されたのかと思うと自然と涙が溢れた。
彼はまだ、助けを求めている。今度こそ、その声は届いた。
「っ! ダンを呼んで、それから……」
今夜にも迎えにいくと決めて、アルブレヒトはバタバタと城の中へ戻っていった。
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