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★ベリアンス
王都は静かだ。ようやく戦が終わっても、お祭り騒ぎはない。王があの様子では、表だって祝うような空気にはならないだろう。
涼しい夜の王宮、そのテラスから静かに街を見下ろしていたベリアンスの手には、剣はない。そして心には、ぽっかりと穴が開いた。
剣を失った。その時に、騎士としての自分を諦めた。どれほど握ろうとも一時間、握る事ができない。ビリビリと腕から先が痺れて、手を柄に添えている事すらできなくなってしまった。
苛立ちはあった。焦りもあった。だがそれを過ぎると、虚しさばかりが心を支配した。
今まで騎士であった父の背を追いかけ、誇りを持って力のない人々を守ってきた。その誇りが崩れ去ってもまだ、この手に剣があれば縋り付いていられた。
お前にその剣を持つ資格はない。
それを突きつけられた気がした。
それでも生きていたのは、セシリアがいたからだ。唯一の肉親を助け出す。それだけを心の支えにしてきた。だが……
目を閉じるとあの瞬間を今も見る。慈しむような顔をして、乗り越えた体。呟かれた言葉。遺体も見たが、ここ暫くで一番安らかで美しい顔をしていた。
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