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「お前は、受け入れたのか。憎みながら、恨みながらも自らに宿った命を、慈しむ覚悟をしていたのか?」
助けてあげられなかった。セシリアは「私が選んだ」と言うが、選ばせてしまったのはベリアンスだ。それ以外の選択がなかったのと同じだ。
どこで間違えたのだろう。何が、幸せな道だったのだろう。未来は見えない。アルブレヒトですら、望まない未来だったに違いない。変わり果てたナルサッハを抱き寄せ、あんなに泣き濡れる人を見たことがない。
未来を見る人ですらも、幸せな道を選べない事もある。それを目の当たりにして、諦めた。
ベリアンスは力の入る右手で体を支え、テラスの縁に足をかけた。下には夜の闇と、城の庭がある。まるで呼んでいるようだ。
いや、望んでいるのだ。
ゆらゆらと不安定な体で、ベリアンスは多少前へと体重をかける。簡単だ、一瞬なのだから。
だがその体を後ろから強い力が捕まえ、投げ捨てるように後ろに引き戻される。強かに腰を打ち付けたベリアンスは、そこに燃えるような瞳をしたダンを見た。
「ダンクラート……」
「おいテメェ、なに楽になろうとしてやがる」
「……」
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