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久々に聞いたドスの利いた声に、苦笑が漏れる。小さな頃はこいつのこの声も時々聞いた。気の短いダンと、意固地なベリアンス。自然と喧嘩になり、悪化するとこいつはこんな目をした。
「もう、いいだろ。勘弁してくれ、ダンクラート」
「逃げんな」
「……では、何をしていけばいい。俺にはもう、未来が見えない。支えるものもない。唯一の肉親も亡くし、剣も失った」
「甘えてんじゃねーぞ」
「お前に何がわかる。五年、悔しさと憎さを噛み殺し、それでも仲間と妹を守ろうと必死になっていたんだ。なのに……両方失った」
かつての仲間まで失ってなるものか。唯一の肉親まで失ってなるものか。どれだけ泥水を啜ろうと、それだけを胸に生きてきた。なのに……
「お前はまだ、故郷に親が生きている。キフラスも生きている。剣を握れる。お前に俺の何がわかる」
「あぁ、分からん! だがお前だって、俺の気持ちは分からないだろ」
「お前の、気持ち?」
何かあっただろうか。思い出そうとしても、出てこない。それだけ、色んなものが抜け落ちた。
ダンは憎らしくギリリと奥歯を噛み締め、グッとベリアンスの胸ぐらを握った。ゴツい顔が近づいて、パッと眼帯を取る。大きく傷つき開くことのない瞳が、そこにはあった。
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