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「生きているのに死んだことになって、故郷の窮状を知っても助けに行けなかった悔しさが。亡霊として彷徨わなければならなかった虚しさが。片目を失い感覚を失い剣を握るも苦労した、俺の焦りをお前は知っているのか」
「あ……」
そう、だった。こいつが目の前に現れたとき、ベリアンスは生きている事を隠すことを提案した。全ては囚われているアルブレヒトを探す手がかりを得る為だった。
だが、そうか。それはすまないことをした。生きているのに死んでいる、そんな妙な状態で知り合いの多い場所に長居はできなかったか。この国にも、長くいられはしなかったか。
「すまない……」
「おい、その一言で済まそうとしてんじゃねーぞ」
「では、何をしろと言うんだ。俺は、もう……」
「俺がした苦労をお前もしろって言ってんだ!!」
怒鳴る声が耳に痛く、投げ出される体に痛みを感じる。そこに、無骨な剣がギラリと光った。
「テメェ、俺に生きろと苦労押しつけるだけ押しつけて、お前は勝手に楽になろうなんて、んなこと許すと思ってんのか。お前の生き様、それでいいわけあるか。足掻け、這いずれ! 俺はそうやって、つかみ取ったんだ。お前や他の野郎の希望を背負って、足掻いて今の剣を得たんだ。お前も同じだけ苦しめ」
「勘弁してくれ……」
呟いた。だが、ギラギラした野性味のある瞳を見ると許されないのだと思う。
「捨てんのかよ、剣」
「左手が言う事をきかないんだ。どうしろという」
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