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「今のお前が死んだところで、あの世で嬢ちゃんには会えないさ。アルブレヒト様に聞いたが、嬢ちゃんは立派に美しく、母として天に昇ったそうだ。その前に出て恥ずかしくないように、精々生き恥さらそうぜ」
「はっ、お前もか?」
「恥が多すぎて穴掘って埋まりたい気分だぜ、まったく。この目だぞ、憎たらしい。帝国じゃ頭下げっぱなしよ。上には上がいるのも思い知った。悔しくてたまんないだろ」
「軍神か。あれは諦めろ、規格外だ」
「アルブレヒト様も『神に近い化け物』と言ってたからな。人間様は足元にも及ばん」
「はははははっ、それはいいな」
声を出して笑ったら、少しだけ心が軽くなった。そして、自分の足で立ち上がる事ができた。
そのベリアンスの前に、二通の手紙が差し出される。一つはベリアンス宛、もう一つはレーティス宛。文字は、セシリアのものだった。
「嬢ちゃんが過ごした部屋の、引き出しの裏に隠すみたいに貼り付けてあった。お前の様子見て渡してくれと頼まれたが、今のお前なら大丈夫だ。嬢ちゃんの思いを、ちゃんと受け止めて歩け。あと、レーティスにはお前が渡せよ」
「……受け入れてくれるだろうか。レーティスの傷は、俺以上に深いだろ」
「生真面目で優しすぎるからな、あいつも。それでもアルブレヒト様がそうしろってよ。他の誰でもないお前が嬢ちゃんの思いを受け止められたら、レーティスに渡せ。同じ痛みを共有できるのは、お前だけだからな」
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