381人が本棚に入れています
本棚に追加
怖かった。あいつがいつ来るのか、この闇の中では分からない。今が夜なのか、分からない。怯えながら、肉体を持たない意識は疲労から眠る事もできない。夢も見ない。
あの時はまだ、救いがあったのか。夢という逃げ道、そこでだけアルブレヒトに抱かれ、甘え、幸せな気持ちを思いだした。人として狂えない事を恨んだけれど、夢すら見られない今を思えばなんて贅沢だったんだ。なのに、逆恨みして……あの人を傷つけた。
どこで、狂ったんだ。あの地獄を、乗り切れなかった弱さなのか。醜さを体現したような体を見る度、己の穢れを見て苦しんだ。『所詮は奴隷』という言葉を否定できなかったことなのか。
違う。あの人を信じ続けられなかった、ただ一点なんだ。
『我が君……助け…………お願い、もう止めて……』
何度も弱り切った声で、私は懇願し続けている。
閉ざされた闇の世界に、突如音が響いた。いつもはしない、カツカツカツという急ぐ足音が近づいてくる。そしてこの暗闇の世界に、人工的なランプの明かりが差し込んだ。
『あ……』
戸口に立ったその姿に、思わず声が漏れた。必死な様子のアルブレヒトがそこにはいたのだ。手にはランタンを持ち、剣を差して。白が似合う人に色は少ないのに、生きている人の色彩の鮮やかさを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!