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それでも思う。死んだ人間が助けを求めてなんになるんだ。見えないのに、聞こえないのに、どうやって存在を知らせるんだと。
けれどアルブレヒトの薄紫の瞳がこちらを見つめる。そして走り寄るように近づいて、グッと抱き寄せたのだ。
「ナル! ようやく、見つけた」
『どう、して……?』
私が見えるの? 声が聞こえるの? 触れられるの?
肉体を失った体に、この人の体温を感じる。触れている感触が分かる。それはとても不思議で、こみ上げる嬉しさがあった。
「お前は魂も強いから、私が強く願えばなんとか触れられる。ようやく、私も自分の力をものにできたので」
苦笑したアルブレヒトが、傷ついた左側を労るように撫でる。途端に走るのは、胸に刺さる痛みだった。
『ざまぁない、でしょ? 貴方を陥れた私は、所詮ここがお似合いなのです』
「そんな事はない、ナル」
『綺麗事です! ではどうして、私はここにいるのです! この地獄が終わらないのですか!!』
感情が溢れる。繕う肉を失ったせいか、感情が剥き出しになって止まらない。こんな子供のように声を荒げたり、心のままに言葉を紡いだり。ずっと、抑えてきたはずなのに。
アルブレヒトはより強く抱きしめてくる。その体が、震えている。
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