381人が本棚に入れています
本棚に追加
伝わってくるものは、昔よりずっと弱い。それでもこの人の心に、暗さや憎しみがないのを感じる。こんなにしたのに、まだ許されている。
『許さなくていいのに、どうして……。苦しんだでしょ? 許せなかったでしょ? 憎んだでしょ? なのにどうして、貴方はこんなにも優しくあれるのですか』
「私とて、昔のような無償の優しさなど捨てましたよ。けれど、お前の事を憎んだ事はなかった。お前の事を思うといつも、助けに行けなかった不甲斐ない自分を思い苦しかった」
労りの手が、体を撫でる。そこから、楽になっていく。心地よくて、温かくてたまらない。木漏れ日みたいな光に包まれる。
この温かさが欲しかった。この優しさが欲しかった。得られないと思い込んで、嫉妬した。この人の優しさを受け取るベリアンス達が、憎くなった。この人を、私だけのものにしたかった。
相応しく無いくせに独占欲ばかりが肥大したのだろう。転落したのに、それでも上にある貴方に手を伸ばしていた。欲しかった。貴方の特別に、私はなりたかった。
なれないと、思い込んだ……
「ナル、私はあの五年間を恨んでいません。むしろ、お前の苦しみを知るようでたまらなかった。こんなに苦しい時間を過ごしたのかと思うと、助けられなかった事を苦しく思いました」
最初のコメントを投稿しよう!