【残酷表現あり】とある宰相の転落劇・1(ナルサッハ)

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【残酷表現あり】とある宰相の転落劇・1(ナルサッハ)

 覚えている一番古い記憶は、豊かな森の中。春はコブシの花が空を白く埋め、夏は温かく草の香りがする。秋は木の実や木の葉で一面が色付き、冬は寒くしんしんと雪が降る。  ネメシス、後のジェームダル宰相ナルサッハは、帝国の東にある大森林地帯、別名エルの森に生を受けた。  今思えば便利な道具も、贅沢な食事もない質素な暮らしだった。  けれど、とても幸せだった。  雄々しくも優しい父がいて、優しいけれど時に厳しい母がいた。  周囲の子供も大人も皆家族みたいで、町に一番近い集落は比較的物もあった。  朝から晩まで遊んだり、大人の話を聞いていたり。僕にとって、一番穏やかな時間だったのかもしれない。 「父さん!」  十四歳の僕は周囲よりも甘える癖があったかもしれない。だがそれも、受け止めてくれる手を信じていたから。 「ネメシス、お帰り。今日はどこに行っていたんだ?」  受け止めてくれる大きな父に、僕は甘える。節の立つ大きな手が白い髪を撫で、眩しく愛しい者を見る目で見下ろす。だからこそ僕は笑って甘えていた。小柄だったから、余計にだ。 「今日は長老様の家に行って、お話を聞いてきました」     
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