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した」
「拙が夫であっても妻にはそう告げるでしょうな」
「死ぬほうは簡単、先立たれた方は、ただ醜く衰えていくばかり、私はそんな自分が耐えられなかったのです」
「事の仔細は・・・粗方分かり申した、ただ坊ちゃんは?」
「あれも武士の子です、今はわからなくともいつかわかる時がくるでしょう、武士の意地も、女の情念も、それと・・・」
「死ぬべき時を待つ・・・ことですかな?」
「はい」
「して、得物は?」
「床の間の脇差で・・・伝家の宝刀「広瀬」と言います。
「筆と状紙を頂戴してもよろしいですかな」
「どうぞ、いずれこの時が来ると日頃思っていたもので」
「メバルの焼き魚、おいしゅうございましたな」
「はい、とても」
「後の始末は拙にお任せあれ、万事抜かりなく」
「ありがとうございます、では床の間の脇差をお持ちになって」
嘉吉は床の間の脇差を手に取って抜いた
(見事に手入れされたものよ、これが女の情念というものか)
「では・・・お命じ下さい」
「主人隼人フジが家来嘉吉伝助に命ずる、我を殺めよ!伝助!」
「ゆるしゃったもんせ!」
隼人家伝家の宝刀広瀬が深々とフジの胸に突き当てられた。
「す、すぐには死ねない・・・ものなのですね私・・・初めてで・・・お恥ずかしい・・・」
「これはご冗談を、流石は我がご主人」
「私・・・行き・・・地獄行き・・・ですね」
「その時は拙が閻魔王に願い出ましょう」
「助かりま・・・」
中村フジの最期だった。
嘉吉はフジを布団に寝かせ、脇差を持って外に出た
中村家の門の前の地面を脇差で削って丸い円を描き状紙に筆で書き残した。そしてその円の中央に正座して腹を十字に刺し死を待った。
「これは、痛し、苦し、しかし我が・・・人生に悔いはなし」
「偉くなくとも~正~しく生きる!」
丸に十の字 島津家の家紋を自らの十字割腹で顕し果てた
その死に顔は双方にこやかであったという。
二人の死後、嘉吉が書き残した書状にはこう記されていた。
説状
嘉吉伝助
代々の主人のご子孫たる中村フジ様の命によりこ れを殺め候う
かくの如き始末は詰腹也
かくの如き次第は追腹也
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