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下さい」
「はい」
玄関先でその老女は、年恰好五十半ばくらいであろうか、フケだらけのざんばら髪、背丈は長身だったフジの夫よりも少しだけ高い180cmくらい、獣のような臭気を放っている男を迎えた。
「拙は嘉吉(かきつ)という者であります。拙が出来るお手伝いならなんでも致しますのでどうか一杯の飯を恵んで下さい」
この異様な臭気を放つ大男を迎えた老女はひるむことはなく微笑みをもって歓迎した。特に戦後まもなくはこういう物乞いは珍しくなかった。家を失い、親兄弟・家族を亡くした物乞い達が食べ物を仕事を探して彷徨う人の群れ、それはフジ自身もかつて体験したことだったのだ
「ご準備致しますので暫くお待ちください、その前に・・・」
フジはそろそろと玄関の土間から踵を返して玄関からすぐの十二畳の座敷の真ん中に新聞紙を広げ嘉吉に言った
「先ずはここにお座り下さい」
「え、ええ、わかり申した」
フジは次に奥の洗面所からバリカンと髭剃り、そしてタオルと電気ポットから
洗面器にお湯を入れて持ってきた。
老女は嘉吉の散髪を始めた。
それはとても手慣れた様子で手動のバリカンも古い物だったがよく手入れがされていたため、嘉吉のざん
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