雨の動物園で

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ポツ。ポツポツ。ザアアアアア。夜の動物園にとうとう雨が降り始めた。待ちわびた天気を大きな背に受けて、象は耳をパタパタと揺らす。フシューっ。一つ息を吐いた後、体の下から何か丸いものを取り出した。くるり。長い鼻で器用にそれを包むと、柵のそばまで歩いていく。のしのし、よろよろ。象はここ数日ろくに眠っていなかった。園内の常夜灯に照らされた雨はきらきらと、夜を泳ぐ無数の小魚のよう。地面で溶け合って、あちこちに小川を作っていた。 さて、やってきた象は柵の外側へと慎重に鼻を伸ばすと、すっかり浸水した歩道に丸い何かをそっと浮かべた。それは赤くてつやつやとしたりんごだった。象は知っていた。歩道を挟んだ向こうの檻にいるあの子が、いつも美味しそうにりんごを食べていた事を。そして歩道がわずかに傾斜していた事を。一夜限りの小川は赤い宝石を受け取ると、あの子の檻のほうへするすると流れていく。柵の内側から二つのつぶらな瞳が、遠ざかっていくりんごを心配そうにじっと見つめていた。りんごの上下に合わせて象の鼓動もぷかぷか打った。途中でりんごが止まりそうになった時は精一杯そちらへ鼻を伸ばし、フンフン風を送ったものだ。 柔らかな雨に力を借りて、進んでは止まり、止まっては進み、ついにりんごが向こう岸へ辿り着いた時、ふと檻の中で誰かが長い首をもたげた。あのキリンだ。まだ起きていたのだろうか。キリンはトコトコと柵の側までくると、漂着したりんごを見下ろして不思議そうに首をかしげた。そしてりんごをくわえると、首をくるくる回して喜んだ。象はもうたまらなくなって、耳をまたパタパタと揺らした。
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