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書庫を出て、庭園を歩いていると、足下に羽が落ちていることに気づき足を止めた。石畳の道に落ちた羽を拾い上げ光にかざしてみると、太陽の光を受けて艶やかな羽の美しさを際立たせる。ボクは自分たちの象徴であり誇りである白い羽の美しさに惚け、ぼんやりと見つめ続けてしまう。が、ふと先程同胞が口にした言葉を思い出し、目を僅かに伏せた。
『あまり人間に入れ込むな。翼が黒く染まってしまうぞ』
光にかざしていた羽を視線と共に下ろすと、羽はボクの作る影によって覆われ輝きが薄れてしまう。本来なら影にも闇にも染まらない純白なはずの羽なのに、ボクの指が掴む羽はうっすらと灰色に染まっているように見えてしまう。ジワジワと影に侵蝕されているように見える羽は、まるでボクの心のように思えた。
ボクは拾った羽を胸ポケットにしまい、背中の翼を広げた。
死を望む少女は、自らの意思で死ぬことはできない。これからの長い人生、自分の存在を恨み、苦しみながら待つしかないのだ。神によって与えられた命の期限が尽きる日を……。
そして、ボクも彼女から与えられる苦しみを抱きながら待つしかない。彼女が苦しみから解放される日を……。
……けれども、その日が来るまで、ボクは自分の翼を白く保っていられるだろうか……。
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