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下方から吹き上げてくる風に、柔らかな黒髪が舞い上がる。その風と共に、緊迫した喧騒が耳に届く。しかし、その声が向けられているはずの少女は、恐怖も悲しみもない眼差しで、ただ虚ろに宙を眺めているだけだった。
屋上の欄干を背に立つ少女の身体がゆらりと揺れ、じわりと傾き倒れていく。足が床を離れ、身体が宙へと飛び出す。地上までの長くて短い時間、少女は全身に風を感じ、同時に近づいてくる幾多の悲鳴も感じていた。
――ドスン。鈍い音が響き、耳を塞ぎたくなるほどの甲高い悲鳴が響き渡った。
ボクは、その様子を無言で見つめ続けていた。
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