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「この世の悪をけちょんけちょん、正義のヒーロー、メタルランナー!」
この適当極まりない決め台詞も、今日でとりあえず終了だ。とりあえず。
「出たな、メタルランナー!」
背中からコウモリのような羽を生やした黒い怪獣が叫ぶ。羽があるのに飛びやしない。二足歩行だ。
「けちょんけちょんにしてやる!」
「やれるもんならやってみろ!」
パンチ。キック。一度くらって、パンチ。ジャンプ。羽が当たって、ふらつきながらも、キック。弱い。相変わらず弱い敵だ。百人目だっていつもと変わらない。そろそろだ。
「必殺!」
何故か良く分からないけど出てくるビームのような物を手刀で放つ。
「ぐわあああああ」
ふざけた叫び声と共に、怪獣はその場にゆっくり倒れた。市民の喜びの声が上がる。危ないのに良く間近で戦いを見ていられるものである。
百人達成。
この日まで二年近く待った。どんないい事があるのだろう。
「……」
棒立ちしている俺の前で、役所の人間がやってきて怪獣及び瓦礫などの撤去を始める。黄色と黒のテープや赤いカラーコーンで囲ったところは、これからしばらく工事の作業が入るだろう。俺の姿を写真に撮る者、ニュース番組の記者と思しき人たちと、いつもといたって変わらない。
とりあえず百人。数え間違えたのだろうか。
いや、数え間違えてはいないはずだ。そもそも百人倒したら何かがあると、言われたわけでもない。俺が勝手に今日を待ち望んでいただけだ。俺は落胆するも、直ぐに気持ちを切り替えた。誰かがもう終わりだと言うその日まで、いつの間にか怪獣が出現しなくなるその日まで、俺がヒーローを続ければいい。
次の日、俺の元にある荷物が届いた。ヒーローのスーツが届いた時と同じ包みだ。中には黄緑色をして角の生えた変なスーツが入っていた。きっとこれが百人倒したご褒美なのだろう。グレードアップかもしれない。
「何だよ、変な終わり方だな! 放送百回記念にして最終回って言うから、先週からめっちゃ楽しみに待ってたのに……期待して損したよ!」
アイスをパクつきながら毒付く少年は、テレビのリモコンを手に取った。
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