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レシオンとは、この食堂で出会った。なんとなく話があって意気投合して、付き合いだした。かれこれ五年前だ。
でも、顔を合わせた回数は少ない。常連さんの方がよっぽど多いだろう。
傭兵の彼は、戦いのために、仕事のためにこの町を旅立つ時がある。そしてついでに絵を描くからと出かけた先に残るのだ。半年近くなんの連絡もなかったこともある。
心配して待っているリリアの気持ちなど、彼は知らないのだ。
いつもへらへら笑って帰って来る。
その顔にいらっともするけれども、ついほっとしてしまう自分もいる。
でも、もう覚悟を決めよう。
今度帰ってこなかったら、ちゃんと別れる。
祭りの前日、今日こそレシオンが「腹減ったー」とか言いながらドアをあけるかと思っていたのに、来ないまま閉店時間を迎えてしまった。別れると決意していても、覚悟していても、やはり期待していたリリアはため息をつく。
片付けを終えて帰ろうとすると、
「リリア」
声をかけられた。ちょっと期待したけれども、そこにいたのはたまにくる鍛冶屋の青年だった。
「どうしたんですか?」
「あのさ、明日の祭り、よかったら一緒に見て回らないかな?」
照れたように頭をかきながら青年が言う。
祭り、か。本当なら、レシオンと回るつもりだった。約束したわけじゃないけど。
でも、彼は帰ってこない。帰ってこないなら、別れるしかない。
この青年は、いい人だ。客としてきた時も、気を使ってくれる。そして、この町に住んでいる。どこかに行かない。
この手をとれば、きっと楽になれる。
もういい加減に、待つのは疲れた。だから、
「あの、私で」
リリアが言いかけた時、背後から伸びた手がリリアの頭に触れる。そのままぐっと、抱き寄せられた。
「だーめ、こいつは俺のだから」
リリアの頭に顎を置いた誰かが低い声で言った。
誰か、なんて考えるまでもなかった。
「あ、すみません。彼氏いるって、本当だったんっすね」
とかいいながら、青年はいなくなってしまう。
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