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トオルに会うのは何年ぶりになるのか。
終電間際の電車に飛び乗り、仕事道具の入ったバッグを抱きかかえるようにしてロングシートの隅に座った。
こんな生活、いつまで続くんだろう。
それなりに努力はしたつもりだけど10代の頃に思い描いていた人生とは、ほど遠いところに来てしまった。
もうあの場所には戻れない。
それでこの先、どうなるのだろう。
毎日をやり過ごすのが精一杯で、夢とか未来なんて言葉はとうの昔に忘れてしまった。
……気がつくとバッグを抱えたまま眠っていたらしい。
ボンヤリしたまま頭を上げて車内を見回す。
よかった。寝過ごしたわけじゃない。
早く帰りたいのに終点まで行ってたとかゴメンだし。
抱えたバッグにアゴをつけてもう一度、目閉じようとして。
あ、トオルだ。
ドアを挟んだ対角側のシートにトオルが座っていた。
あいつ、こんなトコにいたんだ。
あたしに気がついていないのかな。
それとも分かってて無視してるのかな。
この時間の電車だし、同じ沿線に住んでるんだろうな。
何年も会っていなかったけど、ちゃんとやってるみたいじゃん。
スーツなんか着ちゃってさ、似合ってるのが何か変だよ。
いつだって同じジーンズにTシャツだった頃とは別人みたい。
結婚とかしてるのかな。うん、きっとそうだね。
いい奥さんだといいな。子供いるんなら、きっと可愛がってるよね。
懐かしいよ、トオル。
ちょっと変わっちゃったけど、それでもまた君の姿が見れて嬉しい。
あたし、いま疲れてて。声かける元気も勇気もないけど。
でも、あたしはいまもトオルの事をあいし
電車が大きく揺れてあたしは目を覚ました。
起きていたつもりだったけど、うつらうつらしていたらしい。
急に覚醒したからだろうか。心臓がバクバク言ってる。
体を捻って窓の外を眺め、乗り過ごしていないか確認する。
……あたし、なんでトオルがいるって思ったんだろう。
捻った体を戻して対角のシートを見れば、トオルとは似ても似つかない中年の男性が疲れ切った顔で座っていた。
トオルが死んだのはもう10年も前なのに。
まだ、あたしの中で彼は生きている。
なんで別れようなんて言ったんだろう。
どうしてあんな酷い事を言ったんだろう。
あたしはずっとトオルにまた会える日を待っている。
こんな人生、いつまで続くんだろう。
周りの人に表情が見えないよう抱えたバッグに顔をうずめて。
声を殺してあたしは泣き出した。
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