第1章 小さな店 

1/1
前へ
/6ページ
次へ

第1章 小さな店 

昔から、人間の世界と隣り合わせに存在している国があった。 先ほどから急いでいる彼女はその国の住人だ。 彼女が急いでいるのには、理由がある。 隣り合わせの国に戻るには、門限があるのだ。 この街で一番のメインストリートにある、あの小さな店の閉店時間までに店に戻らなければならない。 その店の閉店時間は夕方5時。 それが、門限だ。 冬がやってきたこの街は、5時も過ぎるととても寒いのだが、 彼女は、先ほどからの全力疾走で寒ささえ感じない。 閉店まで後5分、「急がなくちゃ!!」と彼女はつぶやいた。 横断歩道を渡り、もう店の前まできたと、ホッとしていたのもつかの間、 歩道で一人の男性にぶつかってしまった。 とっさに「ごめんなさい!!」と誤ったが、彼女は、それだけで精一杯だった。 ここで立ち止まっては、閉店時間に間に合わない。 謝ると同時に店のドアに手をかけた。 彼女が店に入っていくのを見た先ほどの男性は、「待って!!」と急いで声をかけたが、その時、彼女はもうドアの中だった。 店の前に一人残された男性。 手には先ほど、ぶつかったときに彼女が落としていったイヤリングが1つ握られている。 彼は、それをぎゅっと握りしめ直し、彼女に続いて勢いよくドアをくぐり抜けて行った。 彼女が店の奥のもう1つのドアに手をかけたのは、5時ちょうどだった。 ドアをすり抜けて、彼女は思わず「間に合ったぁ!!」と叫んでいた。 全速力だったため、息を整える。 実は先ほど、そんな彼女を追って、門限ギリギリのところでドアをくぐり抜けた人物がいた。そう、店の前で急ぐ彼女とぶつかり、彼女のイヤリングを拾った彼だ。 彼は、2つ目のドアをくぐり抜けるとき、不安を感じて引き返そうと思ったが、 先ほど入った1つ目のドアはもう存在していなかった。 とりあえずイヤリングは、無くしてはいけないと急いで自分の耳につけて、 彼女の後を追うことにしたのだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加