消えた友人

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高橋は変わった男だった。周りは新しい携帯電話を購入して喜ぶなか、高橋は持たなかった。貧しいわけじゃない。だが、持ちたくないと言う。 「集合場所の紙は靴箱に入れてあるから」 手段の取り方は使われていない角の靴箱入れに手紙を入れるという古典的なものだった。何度も面倒だと言うが、それでもこのやり方がいいといってきかない。それどころか携帯以外の手段を持っておいた方がいいと言われる。 「こうやって会ってんだから直接言えよ」 「まあまあ、いいじゃん」 そう言って隣の自分のクラスに向かってしまった。 高橋とは小学校からの友人で、高校生になっても関係は続いている。俺の家は貧しくて携帯電話を持てなかった。ゲーム機もなく、高橋と河原で遊んだり、秘密基地を作ったりした。 「そういえばある時から秘密基地は危険だとか言って使わなくなったよな」 「だってあそこはバレちゃったから」 「上級生に?」 「違う。もっと怖いやつ」 「誰だよ」 「秘密。時期が来たら教えるよ」 帰る時は例の靴箱を覗き手紙に書いてある場所へ向かう。必ず高橋の方が先に待っていた。 「時期っていつだよ。それに俺たちが考えた文字で書くっていうのもやめない?」 「急にどうしたの」 「面倒だと思って」 授業中に絵文字のような暗号で返事を書く。これも高橋とのルールだった。どれだけ文句を言っても真剣な顔で譲れないというものだから俺はいつも負けてしまう。 手紙をいつも通り取って、男子トイレの個室で読む。これも高橋とのルールだ。 「なんだよこれ」 手紙には君ならできる、未来で待ってるとだけ。どういう意味かと考えるが分からない。仕方ないと高橋のクラスに行くと外がざわざわしていた。 「高橋、行方不明だってよ」 「学校に警察来てるの、そのせい?」 不吉な言葉に学校中を探すが高橋はいなかった。靴箱にも何もなくて、そのまま時が過ぎた。 高橋はいつも俺を待っていた。だが、この日から俺は高橋の帰還を靴箱の前で待っている。
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