このときを、ずっと待ってた

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 その光景は舞台女優のように華やかで美しかったが、腹に刺さったバタフライナイフだけが妙に生々しく浮いていて、これが現実なのだとオレに思い出させた。 「例えば、通り魔に殺されるかもしれない。飛行機が墜落して死ぬかもしれない。末期ガンで死ぬかもしれない。……この世は理不尽に塗れていて、いつ死ぬかなんて分からないもん。だったら、わたしは愛する人に殺してほしい。最後に目にするものがこーくんだなんてこの上なく幸せだし、こーくんの記憶にも一生残っていられる。だから、わざとこんな生活を始めたんだよ。こーくんが耐えきれなくなってわたしを殺してくれるのを待ってたの。そのついでに、念願の二人暮らしするのも、いっぱいお世話してあげるのも楽しかったから、一石二鳥どころか一石四鳥で、もうすっごくお得じゃない?」  美月は可愛らしく小首を傾げてオレに尋ねた。疑問ではなく確認の問いだった。  その口調は、スーパーのチラシで格安商品を見つけて、お得だと共感してほしいとでもいうような気軽さで、オレは彼女に今まで以上の底知れない恐怖を感じていた。     
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