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言われるがままに口を開けると、プラスチックの冷たさとオムライスの熱さが同時に入ってきた。
咀嚼するが、美味しいかどうかはわからない。卵やケチャップの味がすることは最低限わかるが、それが美味しく感じるかは感情によるところが強いからだろう。
生きながら死んでいるような今のオレには、何を食べても同じだった。
──どうしてこんなことになったのだろう。オレの何が悪かった?
改めて考えても、まったくわからない。
あの日まで、美月にこんな願望があるなんて思いもしなかったのだ。
どうにかして、ここから逃げられないだろうか?
手錠は腕が動かないだけで手の自由は利くが、結局は鎖があって逃げられない。
この鎖さえ何とかできれば……。
オレはいつの間にか咀嚼を途中で止め、そんなことを考えていた。
スプーンを構えた美月が、薄く微笑みながら黙ってこちらを見ていたとも知らずに。
「ねぇ、こーくん」
話しかけられてようやく美月の視線に気づき、ハッと息を呑んだ。
その声にはいつもの無邪気な響きがなく、代わりに不気味な静謐さがあった。
美月は、真っ直ぐにオレを見つめたまま問うた。
「これ、欲しい?」
そう言って、美月が見せびらかすように目の前でひらひらと揺らすのは、銀色の小さな鍵。
「その鎖の鍵だよ。欲しい?」
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