不真面目な運転手

2/7
前へ
/7ページ
次へ
と再び小さな声で答えたが、その声は微かに震えていた。 その目が泳いでいる事を、藤原はバックミラー越しに確認する。 そして少女のその言動が、藤原が覚えていた嫌な予感を確信へと変える。  東京から来るにしても、ここに止まる特急の最終の時刻はやっぱり二十三時頃。 それは変わらない。 二十四時間営業のマンガ喫茶やインターネットカフェ、カラオケなどもただでさえ少ないのに、ましてや少女は地元じゃなく県外の人。 それらの店の場所など、余程じゃないと知らないだろう。 その時間から今までの、およそ二時間半。 一体、それ程の長い時間を、少女はどこで何をして過ごしていたのだろう? まさか、ここの広い待合室でずっと……?少女の事を思い、藤原は心配になる。  そんな藤原に、 「あの、発車しないんですか?」 ふと、少女がそう尋ねる。その目はやはり、尚も泳いだまま。 藤原は我に返って、 「おっちゃん、周りから“不真面目な運転手”って呼ばれとんねん。ちょっと喋ってからやないと、動けへんのよ」 そう適当に笑って見せる。それに少女は少し首を傾げるも、 「へえ、関西の人って会話が好きなイメージがあったけれど、やっぱりそうなんですね」 と少し納得したように頷く。  そんな様子の少女に少し安心したのか、 「おっちゃんな、藤原明大っていうねん」 と、にっこりと笑いながら話し始める。     
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加