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「明るいっちゅう字に、大きいいう字で明大。明るくて寛大で、器のでかい男になれっちゅう事で、親がそう名付けたらしいんよ」
「へえ、素敵なお名前なんですね」
藤原の話に、少女が相槌を打つ。
その目は泳ぐ事無く、今度は笑っているように藤原には思えた。
そして、
「あんたの名前は?」
藤原が少女に、話を振る。
「久尾希美です」
「希美ちゃんいいはんの?へえ、どんな漢字?」
「希望の希に、美しいで希美です。両親が一字ずつ、自分の名前の字私にくれたらしいです」
「ええな、希美ちゃんは。響きもええし、何よりあんた、親御さん達に相当愛されとるんやなあ。めっちゃええ名前やん」
藤原の言葉に、希美がふと視線を落とす。
その様子を藤原はまたバックミラー越しに確認し、
「何か、あったんか?」
希美にそっと、そう声をかける。
すると希美は、え、と一瞬驚いたように顔を上げるも、すぐに再び視線を落とす。
そして小さく口を開けたり閉じたりする、何やら不自然な動作を繰り返す。
そんな希美の様子を見て、
「おっちゃん、何でも聞きまっせ。あんたはお客さんやからな」
と、藤原は希美に声をかける。
そんな藤原の様子に少し安心したのか、実は、と希美は口を開いて話し始める。
「実は私、東大の医学部に落ちちゃって。滑り止めも一つ受けていたけれど、そこも落ちちゃったんです」
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