2人が本棚に入れています
本棚に追加
十八歳の希美はまるで幼児のように、素直で無邪気な泣き方だった。
屈託のない、その泣き声。
それを聞いて、繰り返している言葉が希美の本心だと感じた藤原は、
「あかん、だいぶ待たせてしまったがな。せや、おっちゃんもう満足やわ。ほな、そろそろ発車しよか?」
と、いたずらっぽく希美に尋ねる。
そんな藤原に、あの、と希美は服の袖で涙を拭きながら声をかける。
「あの、やっぱり降ります」
「行かんで、ええんか?」
希美の声に、藤原は確認するかのようにそう尋ねる。そんな藤原に、
「はい、何だか両親に会いたくなりました」
希美はそう、ぎこちない笑顔を見せる。それは藤原が初めて見る、希美の笑顔だった。
「ほな、早う帰ったり?きっと親御さん達、あんたの事待っとるで」
藤原も、希美に笑顔を向ける。それを見て、はい、と希美は頷く。
そして希美は自らドアを開け、タクシーを降りる。
結局指定された行き先まで行かずに、それどころか乗った場所で客を下ろすというこの不真面目さ。
その不真面目さを別に悪くは思わない、と希美の笑顔を見て藤原はふと思う。
そして、色々とありがとうございました、と希美は藤原に深々と頭を下げて白浜駅の中へと戻っていく。
タクシー運転手としての役目を全く果たしていない、藤原にお礼をして。
藤原は、はいよ、と小さくそれに応じてその後ろ姿を見届ける。
最初のコメントを投稿しよう!