不真面目な運転手

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 十八歳の希美はまるで幼児のように、素直で無邪気な泣き方だった。 屈託のない、その泣き声。 それを聞いて、繰り返している言葉が希美の本心だと感じた藤原は、 「あかん、だいぶ待たせてしまったがな。せや、おっちゃんもう満足やわ。ほな、そろそろ発車しよか?」 と、いたずらっぽく希美に尋ねる。 そんな藤原に、あの、と希美は服の袖で涙を拭きながら声をかける。 「あの、やっぱり降ります」 「行かんで、ええんか?」 希美の声に、藤原は確認するかのようにそう尋ねる。そんな藤原に、 「はい、何だか両親に会いたくなりました」 希美はそう、ぎこちない笑顔を見せる。それは藤原が初めて見る、希美の笑顔だった。  「ほな、早う帰ったり?きっと親御さん達、あんたの事待っとるで」 藤原も、希美に笑顔を向ける。それを見て、はい、と希美は頷く。 そして希美は自らドアを開け、タクシーを降りる。 結局指定された行き先まで行かずに、それどころか乗った場所で客を下ろすというこの不真面目さ。 その不真面目さを別に悪くは思わない、と希美の笑顔を見て藤原はふと思う。  そして、色々とありがとうございました、と希美は藤原に深々と頭を下げて白浜駅の中へと戻っていく。 タクシー運転手としての役目を全く果たしていない、藤原にお礼をして。 藤原は、はいよ、と小さくそれに応じてその後ろ姿を見届ける。     
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