温度

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パーソナルスペースに誰かいるからといってぬくもりを感じるわけじゃない。近くにいないからぬくもりを感じないわけじゃない。凍てつくような寒さの日、僕は電車に乗っている。せめてもの救いは電車がオープンカーのようにむき出しじゃないところだ。しかしとにかく寒い。マフラーを巻いても重ね着をしても寒い。だけど目の前でいちゃついてるカップルを見てて、彼らには気温なんてどうでもいいように見える。恋人がいたら体感温度も変わるのだろう。 君に変な距離を取られて何日たったことだろう。僕たちは異性としても特別な友達だったはずなのに、片方が恋心を抱いただけでどこかぎこちなくなってしまう。 共通の友達の家で君の誕生日を祝った時、僕は心から祝えないでいた。嫌な男だ。好きな女が目の前で他の男の話をしただけで心は痛む。どんなにその男の悪口を浮かべても自分が嫌になるだけだ。 あの日君を送った帰りに吸った煙草はなぜか美味かった。煙が僕の心の繊細なところに触れたのだろう、涙をこらえるのがやっとだった。 君に会いたいけれど、君に会うことは今となってはたやすくないのだろう、僕が君に恋心を抱いてしまったがために。半年前の僕と君の関係に戻りたいと思わずにはいられない。だけど君に恋をしたこの半年の間で僕だけが見れた君の笑顔はとても特別なものだった。いけ好かないことに、君のぬくもりを感じられないまま新しい年がやって来ようとしている。家族や友人のぬくもりを感じたことは多々あるが今一番欲しいものは君のぬくもりだ。僕だけの君のぬくもりだ。赤い服の白髪の大柄な髭男がもし仮にいるのならそれを僕は望む。 目の前でいちゃついてるカップルを尻目に電車を降りる。偶然君がいないかと探しながら、大学までの道を辿る。たった数分でまた体温は奪われる。疲れた顔のサラリーマン、はしゃいでいる高校生、無邪気に歩く幼児、それを優しく見つめる母親。きっと僕だけが世界に取り残されている。
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