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1.すれ違って置いてかれて
目に入るのは、赤褐色のゴムで作られた、何処までも伸びているトラックと、前を走る競争相手の壁だけだった。
本来見えるはずの、入道雲を描かれた青空も、グラウンドを囲む白い内壁も、内壁越しの風にそよぐ樹々も。必要のない情報は全て無意識が切り捨てて、俺を走る事だけに集中させてくれる。
速歩きから駆けっこのペースまで、脚の回転を引き上げる。折り曲げ、前へ蹴り出した膝を解放して、より遠くの地面をつま先で掴む。そして、蹴る。蹴って蹴って蹴って、ただ加速する。
引き締められた大腿が、体を前に押し出すことで、更に見える風景が変わっていく。
風景がビュンビュンと後ろに流れ去っていき、没入感と加速感を得たと思えば一転、スローモーションが如く、風景が鈍化して、より一層俺の意識は走ることに沈んで行く。
ただ脚を動かし地面を蹴って、目の前の情報だけを高速で処理する。トラック表面の様子。身に受ける風の向き。今の自分の体の使い方。障害物の有無。
次、次、次、次、次、と。
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