1.すれ違って置いてかれて

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駆ける事で目まぐるしく変わる状況では、引いて自分を見ることなど出来ない。ひたすらに眼前を風景を認識しなければ、転倒しかねないからだ。だから、余計なことは考えてはいられないのだ。 其のはずなのに、考えてはいられないはずなのに、一度燻んだ思考は、ついつい頭の隅で余計な事を考えてしまう。自分が全力で走れず、別の事を考えるだけの余裕がある事をいいことに、意識してしまう。 例えば、自分の様に劣等感に蝕まれ、順位が気になってしまう存在ならば、他の走るランナーの事を考えてしまうのだ。 少し走るペースを上げただけでも、其の効果は明らかなものだった。 超えられない壁に様に存在していた、前を走るランナーとの距離を、ものの数秒で蹴り飛ばして、前に出て、追い抜ける。 「目の前の目障りな奴らを抜いた。やった!」と、追い抜き様に、抜かれまいと必死の形相で走る彼らを、涼しい顔で眺め笑って、俺は酷く幼稚で無意味な優越感を得てーーーー ーーーー直後、猛烈な速度で”ナムルマティア:健脚人種“の一団に抜かれて、劣等感に苛まれた。 息を飲んだ。目を見開いて、瞳をぶれる様に震わせた。一瞬、湧いて出た矮小な歓喜など、絶望にも似た感情にすぐに押しつぶされた。     
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