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彼らは、俺の様に此方を嘲笑いなどせずに俺を追い抜かして行く。まるで人が歩く際に足元の小石や雑草を気にしない様に、此方など眼中にないかの様に、淡々と走って俺を引き離す。
勿論俺は追い縋ろうとした。
引き離されたくなくて、同じペースで走れると証明したくて、「嫌だ嫌だ」と駄々をこねる様に。悔しくてたまらなくて、「俺はここにいるのだ」と叫ぶ様に。
無意識に、脚の回転を、大腿の筋肉を、本気で走るペースまで引き上げようとした。
だが、其れは叶わない。筋繊維が凝縮し、加速しようと力を生み出すほど、関節や骨が悲鳴をあげる。
一瞬なら我慢できる痛みも、加速し続ければ、脚を焼く痛みへ変わっていった。
没入感が消えて、幻に溺れていた体が引き上げられる。現実を突きつけられる心地がした。
激痛で膝が崩れ落ちる感覚を味わい、俺は悔しながらも走るペースを落として、止まった。
先程追い抜かして嘲笑ったランナーが、立ち止まった俺を風切り音を纏って追い抜いていく。
彼らも此方を見ていなかった。
俺は、其れが奥歯を噛み砕くほど悔しくて、情けなくて、怒れて、今日もまた無力さを思い知った。
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