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俊足婦警と眠い男
警視庁の最上階にて、男は窓の外を眺めていた。彼は東京の街並みを見ながら、背後にいる人物に問いかける。
「荒巻係長はまだ見つかっていないのかね、米原刑事部長」
「は……我々も尽力しておりますが」
米原と呼ばれた男が、汗を拭きながら答える。
「彼には妻子がおりましたが、離婚して今は独り者です。荒巻という名前でアパートやマンションを借りている様子もなく……」
「それじゃこまるね。霧峰悠人を監視する人間がいないじゃないか」
米原はいえ、と答えた。
「一応一課のほうでも目を光らせております。あの男はどうも得体が知れないというか……今までトクハンに入った人間はみなやめていますし」
「やめない人間を入れればいい」
「しかし……優秀な人間をトクハンに送るのは……つぶされては酷ですし」
「優秀でなくともいい」
男の言葉に、米原は怪訝な表情を浮かべた。
「は……それはどういう」
「霧峰悠人がほだされるような人間をそばにおけ。彼がいざというとき、我々の側を選ぶようにね」
米原ははあ、とあいづちを打った。今ひとつ発言の意味がわからない。警察のトップともなると、下の人間には理解できないことを言うようになるのか。男は窓の外を眺めたまま、行っていい、と告げた。米原は失礼しますと頭をさげ、ドアの前でピタリと足を止める。男の背に問いを投げかける。
「霧峰悠人は……何者なんですか?」
男がゆっくり振り返った。その胸元に輝くのは、警察庁トップの証だ。彼は米原を見据え、口を開いた。
「私が知りたいね、それは」
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